手を振り合う母娘


毎朝の安否確認
扉を開ける瞬間
少し覚悟する


靴を脱ぎながら
杖に目をやり
味噌汁の香りに
ひとまずホッとする


毎度ニョッと現れる私に
「びっくりしたー」と
素っ頓狂な声を上げる母


ぶっきらぼうな私は
二言くらい短い言葉を交わし
仕事に向かう


3階のベランダから
大きく手を振る母

「行ってらっしゃーい!」
「ありがとう!」


集合住宅の朝7時
目覚まし時計のように
母のあっけらかんな声が響く


遠回りして母から見える道を行く
曲がり角まで3回振り返り
母に大きく手を振る


私が見えなくなるまで
手を振り続けている母


今日が最後と思いつつ
手を振り合う母娘

“手を振り合う母娘” への5件のフィードバック

  1. 今日が最後と思いつつ……。
    共感いたします。

    お母さまのあっけらかんな声に何か救われる思いがします。母だからこそ、親だからこその遠回り。でもお互いに見えなくなるまで、手を降りあっておられるのですね。

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    • 何十年も前は、へばりついてくるような密着感が苦しかったのですが、今は思い通りにならない私を諦めて、お互いに切なさを抱きながらも想いあえるようになりました。母は母の淋しさや苦しみを一人で味わうのを、私がどうにかしないとって頑張らなくてもいいってことを自分に許すことができました。手助けはするけど、私が全部負わなくてもいいっていうのを受け入れられました。

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      • そうなのですよね。どんなに親であっても子であっても、お互いどうしてあげることもできない領域。切ないけれど。

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